横断歩道を渡る猫の話

 いつも、仕事やショッピングの行き帰りに通る公園がある。その公園は夕方になると、3〜4匹の猫がたむろしていることが多い。白い猫と、黒い猫。それに斑な猫がいたように記憶している。 猫たちは、何かヒソヒソと話しているようにも見えるし、あくびだけをするために公園に来ているようにも見える。

 きっと、人間が知らない猫の社会があるのかなあと私などは想像しながら横眼で通り過ぎている。

 最近、その中の一匹の白い猫が、丁度、私が帰る頃になると、車の隙間を縫うようにして横断歩道を渡り始める。

 右ひだりを確認することもなく、真っ直ぐ前を見つめたまま走り抜けていく。猫の大きさは人間でいうなら中学生くらいなのか、まだ、世の中のことを良く知らないというような危うさがその動きから読み取れる。

 だから、私は、ハラハラしながら猫に眼が吸い寄せられてしまうのだ。

 信号は確かに赤になり、車は停止している。猫の渡ろうとしている側の信号は青なのだから、問題はないのだが、それを知ってかしらないのか分からないが、猫は迷うことなく飛び出していく。

 一瞬、車に轢かれでもしたらどうしようかとヒヤリとするのだけれど、何食わぬ顔をして、その美しい肢体をくねらせながらヒラリと身をかわして渡って行く。

 この光景を見たのは1回や2回ではない。自宅へ帰る途中で頻回に見ているので、もしかすると一日に何度も横断歩道を渡っているのかも知れない。まるで、スリルを楽しむかのように。

 猫にとって、人間社会はどう映るのだろうか?信号の色の変化をどう捉えているのだろうか?

 車の往来は彼が生まれた時から存在していたのだろうし、今更、車など恐ろしくないのかも知れない。

 猫はこうして毎日、横断歩道を渡って公園に遊びに来て、そして、再び、この横断歩道を渡って飼い主の元に帰る。

 あの猫にとって横断歩道を渡るということは、生きるということなのだろうか。