新型コロナウィルスの風景 東京⑤

 オリンピックの中止が決まったのは確か3月24日だったと思う。日に日に、新型コロナウィルスの感染者が増加していく恐怖に国民が襲われている中で、その日までは、日本政府とオリンピック委員会だけが、どうしようかと議論していたように思えた。

 本当にそんな話をしていたのかと、今となれば不思議な気がする。誰もが命に関係した感染症の不安が胸の奥で疼いているのに、気持ちだけは不透明なオリンピックという華やかな祭典の事ばかりが論じられて、砂を噛んだまま、飴玉を口に入れてしまったような違和感がずっと続いていた。

 さすがに、今はオリンピックのことを本気で語る人は、あまり見られなくなった。オリンピックは来年に延期になったのだから、まだ夢をみていてもいいのだけれど、その話は今はお預けだ。

 多くの人々は、マスコミや政府の言葉を聞き流しているように見える。信じられるのは自分だけだなのか。social distanceも3密を避けることも、知識さえ頂けば、自分の判断でやっていける。誰かに言われたからではなく自分の意思でだ。

 日本人は、あまり言葉を多く言わないが、物事の先行きを見計らって、今後を予測する知恵が民族的に備わっているのだと思う。無意識のうちに、今、必要な環境を自ら作り出している。

新型コロナウィルスが世界を激しく蝕んでいる以上、日本だけが甘い夢を見ているわけにはいかない。それでも、スポーツ関連のテレビ番組などでは、来年のオリンピックに向けてという言葉が頻回に聞こえてくる。そんな言葉を聞いていると、つい「まだ夢を見れるのですか?」と、少し夢心地になる。

 今、GW明けになり、感染者数が減少してきた。ここ数日は東京の1日の感染者は50人以下と報告されている。それは嬉しいことだ。何となく街にも人の姿が多くなってきた。心のどこかで危険かもと思いながらも、道ゆく人々を見ていると、日本人特有の無表情の顔つきをしているビジネスマンが多いが、足元だけはしっかりと前を確かめながら、着実に歩こうとしている東京人の動きを発見した。