新型コロナの風景・東京④(2020年4月17日)

 最近、カミュの「ペスト」という小説の人気が急上昇しているというニュースを聞いた。YouTubeでその内容を確認してみた。勿論、小説で読んだのではないから、正確にストーリーを掴んだわけではない。しかし、その小説の書き出しから胸がざわついた。 主人公は一匹のネズミの死骸を見たことから不吉な予感を持った。そして、それが現実のものとなり、日常の中の恐怖へと繋がっていく展開である。

 100年も前の小説であるがペストに寄せる恐怖と、現代の新型コロナウィルスの恐怖が酷似していてリアルだ。感染症における人々の反応や心理は、過去も現在も変わらない。

 日本の感染者数は、いよいよ1万人を超えた。僅か9日間で倍になった。最近はその数の恐ろしさを感じることは感じるが、自身の感覚が麻痺してきたのか数字に慣れてしまい心があまり揺すぶられない。毎日、毎日、更新される感染者数に「そうか」と思うだけである。

 驚かなければいけないところで驚けないでいる。足がすくんでしまっているようだ。本当はどこかに逃げたい気持ちが湧いている。しかし、どこに逃げればいいのか?

 この地球上にいる限り、このウィルスから誰も逃げられないと思う。

 新型コロナウィルスが現れてから、これまで言われていた道徳が消えたような気がする。例えば、人との絆が大切だとか思いやりだとか、そういった美化されていた事柄が否定されるようになった。勿論、それは、あくまでも物理的な意味なのだが、そうすることが命を守ることになっている。

 他人と2メートル以上を近づいてはいけない。話をしてはいけない。握手をしてはいけない。抱き合ってはいけない。

 これらは人間がこれまでに積み上げてきた文化なのだ。それが次々と壊されていく。あれほど感動した歌も、スポーツの躍動も、華やかな舞踊も、今は皆、色褪せて見える。

 どうか、いつの日か、これらの人間が作り出した文化が、また元のように鮮やかな色彩を見せて輝き、表舞台に戻ってくる日が訪れることを願っている。